今回は、現金を動かさずに増資ができる特に有効な2つの方法「デット・エクイティ・スワップ(DES)」と「利益剰余金の資本組入れ」について、それぞれの仕組みやメリット・デメリットを分かりやすく解説します。

資本金を増やすメリット
1. 対外的な信用力の向上
資本金は、会社の規模や財務基盤の安定性を示す重要な指標です。 資本金が多いほど、外部からの信用を得やすくなります。
✅取引先からの評価
新しい取引を開始する際、取引先は会社の信用力を判断するために資本金をチェックすることがよくあります。資本金が多いと、安定した取引が見込めると評価され、大きな取引につながる可能性があります。
2. 経営の安定化
資本金が増えることで、以下のような効果があります。
✅自己資本比率の向上
自己資本比率とは、総資本に占める自己資本の割合です。この比率が高いほど、会社の財務体質が健全であると見なされます。資本金が増えることでこの比率が向上し、倒産リスクが低いと評価される可能性があります。
3.一定額以上の資本金が必要な許認可業種
一部の許認可業種では、事業の健全性や安定性を確保するため、会社設立時または許可申請時に一定額以上の資本金(自己資本)が求められます。
建設業
建設業には「一般建設業」と「特定建設業」の2つの許可区分があり、それぞれ資本金等の要件が異なります。
- 一般建設業
資本金自体の要件はありませんが、「500万円以上の自己資本があること」または「500万円以上の資金調達能力があること」のいずれかを満たす必要があります。 - 特定建設業
発注者から直接請け負った工事について、下請け代金の合計額が4,500万円(建築一式工事以外は3,000万円)以上となる場合、「資本金が2,000万円以上であること」が必要となります。
労働者派遣事業・有料職業紹介事業
これらの事業は、派遣労働者や求職者の保護が重要であるため、財産的基礎が厳しく審査されます。
- 労働者派遣事業
「資本金が2,000万円以上」かつ「現金・預金が1,500万円以上」であることなどが求められます。
ただし、特例として、小規模な事業主であれば資本金1,000万円で済む場合もあります。 - 有料職業紹介事業
「自己資本額が500万円以上」かつ「現金・預金が150万円以上」であることなどが要件となります。
現金を使わずに会社の資本を増やす方法
1. デット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap)
デット・エクイティ・スワップ(以下「DES」)は、企業が抱える「負債(Debt)」と「株式(Equity)」を「交換(Swap)」する手法です。
具体的には、企業に債権を持つ人が、その債権(借金)を出資する代わりに、その企業の新株を受け取ります。これにより、企業は負債を消滅させ、その代わりに資本金を増やすことができます。
仕組みの具体例
例えば、X社が役員Aから400万円の借り入れを受けていたとします。この役員借入金に対してDESが実行されると、以下のようになります。
X社の貸借対照表(バランスシート)
・負債の部:役員Aからの借入金400万円が消滅する。
・純資産の部:資本金が400万円増える。

この結果、X社は役員借入を無くし(あるいは減らし)、かつ資本金が増えることで財務体質を改善できます。
役員借入金は、中小企業では返済のめどがなく塩漬けになってるケースが多いですが、相続時には額面通りの金額で相続財産になります。
そのため、返済の可能性のない債権に対して相続税が発生する可能性があります。
DESを行うことで役員借入金を減らし、相続税の圧縮を図るとともに、現金を使わずに増資が可能です。
2. 剰余金、準備金の資本組入れ
繰越利益剰余金がある場合、資本金に振り替えることができます。
繰越利益剰余金とは「企業が創業から積み上げてきた利益の合計」です。
企業における過年度の利益の積み重ねに、当期の利益(または損失)を加算した金額が繰越利益剰余金です。
この繰越利益剰余金を、帳簿上の手続きで「資本金」に振り替えるのが「資本組入れ」です。
資本組み入れの手続き(DES・剰余金組み入れどちらも)
- 株主総会の決議: 資本金を増やすためには、まず株主総会でその旨を承認する必要があります。決議内容は、「利益剰余金(または準備金)〇〇円を資本金に組み入れる」というものです。
- 効力発生日の設定: 決議した内容の効力が発生する日を定めます。通常は、株主総会の決議日以降の日付を設定します。
- 登記の変更: 効力発生日から2週間以内に、法務局で資本金の額変更の登記申請を行います。この登記が完了して初めて、資本金の額が正式に変更されます。
注意点
資本組み入れには、いくつかの注意点があります。
- 一定額以下の資本金(1億円以下)であれば、中小企業としての優遇措置が適用されるところ、剰余金・準備金を資本に組み入れることで、優遇措置が適用されず、税負担が増加する可能性があります。
- 資本金が1000万円を超えると、法人地方税の均等割りの金額が増えます。
- 株式会社、有限会社以外は利益剰余金を使っての増資はできません。
まとめ
デット・エクイティ・スワップ(DES)は、借金という「負債」を「資本」に変える方法です。
一方、利益剰余金の資本組入れは、社内に貯めた「利益」を「資本」に変えることで、会社の信用力を高める方法です。
どちらも、一定以上の資本金とすることで、外部からの信用を得やすくなったり、許認可が必要な事業を行うことができるようになります。
実施を検討される場合は、ぜひ1度お問い合わせください!